しなやかな組織づくり~次世代の経営・マネジメント~ 第2弾
教えることは学ぶこと
「教学半」という言葉があります。「教うるは学ぶの半ば(なかば)なり」と読みます。「きょうがくなかば」と読んでいる人もおり、私もそうです。 見た目の通り、また読んで字のごとく、教えることの半分は学ぶことであるという意味です。つまり、人に教えるということは、自分にとっての学びでもあることを指しています。 あるいは、教えられるようなレベルにならないと、本当に学んだことにはならないという意味で使われることもあるようです。
以前、ある組織で「メンター制度」を社内に導入・運用するというお手伝いをしたことがありますが、「教学半」のとおりの事がおこりました。 メンタリングとは、人の育成・指導方法の一つで、育成・指導する側がメンター(mentor)、被育成者の側がプロテジェ(protégté)もしくはメンティー(mentee)と呼ばれます。 もとより、教える・育成するというよりも支援するというニュアンスが強いものでもあります。
さてこの事例組織では、人材育成の風土づくりの一環としてメンター制度の導入を企画しました。 まずメンタリングとは何かを理解し、自社ではどんなことをするか議論を重ねたうえで、20組ほどのメンター&プロテジェのペアになり、1年間のメンター制度を試験導入してみたのです。
1年後、メンター同士、プロテジェ同士でそれぞれ集まり、どんな「メンタリング」だったのかを振り返り、共有する機会を持ちました。 プロテジェの方々からは、メンターに向けて自身の仕事の悩みのみならず仕事以外の悩みや、キャリアや自己啓発の相談などを持ちかけた方々が多かったようで、 「メンターの経験談を語ってもらえて参考になった」「今の自分の悩みは、数年前のメンターの過去悩みと同じなのだと知り、勇気をもらった」 といった感想が聞かれ、大変満足度が高い結果となりました。
一方のメンター側にも、「若手の普段考えていることを学ぶことができた」「自分の方が刺激を受た」「マネジメントの参考になる」「自社の正式な制度にすべきだ」・・・等々、 メンターの多くが、自らが学ぶ機会を得たという感想でもちきりになりました。 当初メンター側には、「主人公はあくまでもプロテジェの方であって、我々メンター側にメリットはあるのか?」という声もあったのですが、 終わってみるとまさに「教学半」という結果をみたわけです。
この「教学半」は、学問的に脳科学の側面からもどうやら的を射ているようです。脳科学の専門家曰く、脳はインプットよりもアウトプットの方が活性化するそうです。 たとえば、学生時代には、勉強をするのに理解したものを書き出しながら覚える方が、理解が早いという経験をした方も多いと思います。 まさにそれがアウトプットによる脳の活性化ということでしょう。他人に教えること、話すこと、あるいは自身で書き出してみること・・・これらアウトプットする行為によって、 人は成長したり脳が活性化したり、ということにつながるといえそうです。
著:日本能率協会 KAIKAプロジェクト室 山崎賢司